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《山本勘助》をめぐる三冊の本 書評

 書店に並ぶ風林火山や山本勘助関連の書籍がふえた。最近、読んだ中で若干コメントをしてみたい。たろべえは、大学時代、文学部哲学科で「日本思想史」を専攻した。机の上の空論ではなく、実証的な学問の仕方を学んだつもりだ。そこで今回、三冊を紹介する。Vfsh0209_edited

○ 『山本勘助』上野晴朗(新人物往来社)

真実の山本勘助を描いた唯一の歴史書と、帯にある。さすがに勘助研究の第一人者といわれる上野先生の基本が「フィールド・ワーク」で、生誕地から墓所まで、勘助の活躍ぶりを『甲陽軍鑑』のエピソードに焦点を当て、実に丹念に現地調査をおこなって、調べて書いている。北杜市蔵原の山本道鬼(勘助)の屋敷墓の発見もある。

「一等史料のほとんど存在しない、伝記的要素の歴史を書くということは、自己自身に対する告白のようなものである。」
「(略)本書は物語ではなく、あくまで歴史書である。歴史をさぐるドキュメントとして書いた。(略)」(あとがきより)読み応えがある。

○ 『山本勘助はいなかった』(「風林火山の真実」)山本七平(ビジネス社)
本の帯に“「M&A時代」のトップリーダーは武田信玄の「乱世の帝王学」に学べ!!”とある。山本七平といえば、キリスト教や聖書にも造詣が深く、独特の歴史観で西洋と日本の文化を比較文化論で分析する手法だ。しかし。この本はタイトルにだまされた。実は、1988年発刊の「山本七平の武田信玄『乱世の帝王学』(徳間文庫)」を焼き直したものだ。しかも本人がことわっているが、信玄の領国経営に関する記述は、上野晴朗氏の各種資料を参考にしたものである。
 山本勘助に関する記載は、第6章のみ。おもな主張はこんなところだ。

「信玄の側近に影のごとく付き添って補佐していた人物がいたとすれば、それは情報、謀略活動の機密要員だったはずである。従って勘助は一人ではなく、五人も十人もいてよいのである。」
 ただし、「武田騎馬軍団」に関する記述は、山本氏の太平洋戦争従軍経験から
(山本氏は大砲を馬にひかせて移動する任務の部隊)実に興味深く、分析されていておもしろい。映画やテレビドラマと違って、鎧兜(よろいかぶと)の重装備の武士を乗せ、馬は走れないそうだ。軍馬の最大の効用は、山間部での兵と物資の輸送であったそうだ。しかも甲斐・信濃には馬の食料「牧」も豊富にあり、兵農分離以前の農民兵士は、短命な馬とのつき合い方も心得えていたそうだ。総合的には「だまされた」が、内容はビジネス書でおもしろい。

○ 『軍師 山本勘助』(語られた英雄像)笹本正治(新人物往来社)
山本勘助を理解する根本史料『甲陽軍鑑』を読み、勘助の実像に迫り、戦国時代の実態をつかむ目的で書かれた。帯には“山本勘助とは何者か 武田氏研究の第一人者による、待望の書き下ろし”とある。『甲陽軍鑑』における勘助の記述に丹念にコメントされていて、読んでいて勉強になった。また上野晴朗氏の説への反論もある。

「『甲陽軍鑑』に記された山本勘助は魅力的であるが、描かれた活動の事実については否定的立場に立たざるをえない。一つ一つの事績を当時の歴史事実、社会現象から検討すると、ほとんどが史実と合致していないのである。
 (略)市河藤若宛武田信玄書状に見える「山本菅助」の存在が事実でも、彼を『甲陽軍鑑』の山本勘助と同一人物、あるいはそのモデルだとすることには躊躇を覚える。」(あとがきより)

山本勘助に関する、いい加減な雑誌や文庫本を読むのであれば、この三冊を読み比べていただきたい。(もちろん、まだまだ内容のある関連本は多数あるが)

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コメント

とっても参考になりやした。
本屋へ行ってもやたらと風林火山うあら勘助やら、たくさん出ています。そこでもりたたろべえさんの書評をブログ検索でみつけ助かりました。是が非でも次は新書版や文庫本の関係書籍について書いてくださいまし。

投稿: 網走番外地 | 2006年12月23日 (土) 00時15分

番外地さん(それにしてもすごい名前ですね)

コメント拝見。ありがとうございました。
風林火山関連の書籍は、たくさん出てきました。文庫本や新書にも目を通していますので、
次の機会に書いてみます。

投稿: もりたたろべえ | 2006年12月25日 (月) 19時02分

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