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《海を渡った幕末の曲芸団(高野広八の米欧漫遊記)》

以前このブログで“日本の旅券第一号《隅田川浪五郎》2007年5月16日 (水)”を書いた。http://tabikoborebanashi.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_e496.html

改めて紹介すると、一座は、慶応2年10月29日(1866年12月5日)横浜を出航し、約2年余りアメリカ、イギリス、フランス、オランダ、スペイン、ポルトガルなどを巡業し、18名の内、団員の半分が明治2年(1869年)春、帰国した。足芸の浜碇一座4名、日本公式旅券第一号の隅田川浪五郎一座5名の計9名は、帰国せずさらに欧米巡業を続けたそうだ。

 「帝国日本芸人一座」のマネージャー役(後見人)の高野広八の日記が残っており、これを題材にして、安岡章太郎が『大世紀サーカス』を書いた。少し脱線が多いが、一座が遭遇した事件や広八の色好みなど、興味深く読める作品だ。さらに幕末から明治の日欧・日米交流史の研究家・宮永先生の本は、もっとおもしろい。

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※『大世紀サーカス』(安岡章太郎、朝日新聞社刊1984年、朝日文庫1988年)

※『海を渡った幕末の曲芸団(高野広八の米欧漫遊記)』(宮永孝、中公新書1999年)

  宮永本を参考に「広八日記」から一座のエピソードや興味深い記述をピックアップしてみよう。

 一座の給料は2年契約で年棒はつぎのとおりであった。(1両40,000円として)

浜碇定吉一座:年棒3,500両(1億4,000万円)

隅田川浪五郎一座:1,100両(4,400万円)

松井菊五郎一座:700両(2,800万円)

 かなりの高額のギャラだと思う。(幕末の貨幣価値については諸説ある。1両8万円ともいわれる)

さて、一行は、横浜を出航してサンフランシスコまで、船旅は28日間かかった。さらに公演後、サンフランシスコから東部のニューヨークまでは、大陸横断鉄道が開通前であったため、サンフランシスコから船で太平洋を南下、パナマを経由してカリブ海、大西洋を北上する船旅で24日間かかっている。その反面、ヨーロッパに渡るには、ニューヨークから英仏まで約14日間である。

ニューヨークでは、浪五郎の妹・「とう」が現地で出会った日本人一座「鉄わり福松一家」の和太夫と密会している場をみつかり、浜碇と隅田川一家が殴り込みをかえようとするところ、マネージャー・広八が仲介に入り、福松一家が詫びを入れ解決した。

首都・ワシントンでは、時の第十七代大統領・アンドリュー・ジョンソンに謁見。

ボストンのホテルの客室では大金の盗難に遭う。140両と米ドル30両相当の計170両(1両40,000円として680万円)。しかし広八は、「まことに残念なれどもせひなし(しょうがない)」と日記に書く。

パリでは万国博覧会に江戸幕府の名代として来ていた徳川昭武(慶喜の弟)一行が、曲芸を見物。金五十両のご祝儀をいただいた。(1両40,000円として200万円)

「帝国日本芸人一座」の人気者は、浜碇梅吉(12歳)。どんな芸なのか。

浜碇定吉は自分の肩の上に一丈五尺(3m50cm)の竹竿(さお)を立てると、梅吉が竿をのぼっていく。梅吉が竹竿の先に達したとき。竹は大きくしなり、曲がってしまうが、下にいる定吉が体でバランスをとると、梅吉はしなった竹の上で体を水平に保ち、扇をぱっと開いて「オール・ライト」と発する。これにより、梅吉は”オール・ライト”と呼ばれていた。Img_edited

このほか、ロンドンの娼婦にださまれ、大金をくすねられるが、当時の警察に掛け合い、犯人を逮捕してもらう。(お金は戻らない)

宮永孝は、この本を執筆するにあたり、欧米をかなり細かく取材している。とくに各地に残る当時の新聞で一座の広告や記事をさがし、公演期間をはじめ、公演先の劇場や入場料なども調べた。これにより、「広八日記」の史実を補足し、米欧巡業の日時を追った。また、宮永の功績は、日記にも出てくる、イギリスで病死した「松井菊五郎」の墓をロンドン郊外のブルックウッド墓地で実際に発見したことだろう。また、研究論文や専門書と違い、わかりやすく書かれている『海を渡った幕末の・・・』は、リズムもよく、楽しく読めた。

(写真:同書より、梅吉ことオール・ライト)

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