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《はとバスの新人バスガイドさん》

 添乗員をやっていると、日本全国で実にたくさんの貸切バスに乗る。当然、多くのバスガイドさんに会う。京都のヤサカ観光バスや九州の祐徳バス、宮崎交通などは、ガイドの質がよい。中でも都内の《はとバス》は、接客マナーから車中での観光案内まで群を抜くすばらしさだ。Photo

 毎年何十人かの新人が入社するという。2カ月間の研修を終え、彼女たちははじめのうち、先輩ガイドと一緒にバスに乗り、実際の仕事の流れをおぼえていくのだった。

やがて、東京半日観光、人気の5時間コースが、新人バスガイドとして一人での、最初の業務、デビュー戦となる。

 その日、東京駅丸の内南口。午前9時、山形出身の新人ガイド・まなみさん(20歳)は、緊張の面持ちでお客様を待つ。コンビを組むドライバーは、はとバスのハンドルを握って30年近い、「指導運転手」のベテラン小山さんだ。

《東京半日Aコース》は、都内半日観光の決定版として人気が高い。9時20分に東京駅を出発して、皇居前広場で下車。ガイドはお客様の先頭に立ち、徒歩で坂下門から二重橋前(集合写真撮影)、そして楠正成像の前まで誘導する。

 さらにバスは浅草へ。観音様におまいりして、仲見世にご案内。レインボーブリッジとお台場を車中から見学して、東京タワーへ。お客様を展望台直通のエレベーターまでご案内する。そしてバスで再び東京駅へ。約5時間のコースとなる。

 9時を過ぎる頃からお客様が徐々にやって来た。平日のため、こども連れは少ない。ほとんどが地方からやって来た年配の女性や老夫婦だ。すると、思いもよらず、ニコニコした顔で、おしゃれをした、まなみさんのおかあさんが、乗車券をもってバスの入口にやって来た。他のお客様の手前、ガイドのまなみさんは、驚きを隠しながらも自分の母親に会釈。

おかあさんも

「ごめんね。内緒で予約したの。まなみの初めてのガイドぶりがみたくて。昨日、出てきたの。」

 まなみさんは、まさか自分の母親がお客で乗車するとは思っていない。しかし、仕事は仕事である。皇居に向かう車内で、案内をスタートした。30名のお客様がいる。

 初めての一人業務、極度の緊張。

「おはようございます。本日は、はとバス、東京半日Aコースにご乗車いただきましてまことにありがとうございます。これより、バスは皇居前広場へ進めてまいります。皆様をご案内させていただきます、この車のドライバーは小山。ガイドは私、○○まなみと申します。まだまだ未熟ですので、不行き届きの点もあるかと存じます。本日はどうぞよろしくお願い致します。」(教科書どおりに)

と、こんな感じのことをマイクで言ったはず。

 しかし、あがってしまったため、「江戸城を開いたのは、と、と、とくがわ、いえやす・・」と、どもってしまった。その後も車内の案内は、たどたどしく、間違えたり、つまったりしてしまった。浅草では、お年寄二人の女性が、集合時間に戻って来ないため、走ってさがした。でも無事にみつかった。

 バスが再び、東京駅に向かう車内で、まなみさんは終了のあいさつをした。何を言ったのかは覚えていない。そのうちに、なんとかやり終えた安堵感なのか、母親と目が合ってしまったためか、思わず涙が出てきた。感極まるというあれだ。

 お客様は、みんな好意的だ。バスガイドが新人なのは、見ていればわかるというもの。だが一生懸命にやっている姿はいい。バスが停車すると、ドライバーの小山さんがマイクを手にした。

「ドライバーの小山です。本日は新人ガイド、○○まなみのはじめての乗務でした。しかも田舎から、娘の晴れ姿を見たい一心でおかあさんがお客様として乗っておりました。私も出発まで知りませんでした。まなみは、案内もまだまだです。たくさん失敗もします。でも彼女のバスガイド人生の中で、今日が最初の乗務でした。どうか、激励のあたたかい拍手をお願いします。本当にありがとうございました。」Bus

 指導運転手の小山さんの目もうるんでいた。聞けば、小山さんにも同年代の娘さんがいて、バスガイドではないが、社会人として働き出したところで、まなみさんが自分の娘のような気がして、最後にマイクを握ってしまったそうだ。おかあさんも泣いていた。

なんだか、乗客のおばあちゃんたちもハンカチで目頭を押さえていた。

(ドライバーに実際に聞いた話を再構成しました。名前は仮名です。)

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コメント

たろべえ様、素敵なお話を有難うございます。
よくありがちなテーマですが、真に迫っておりました。特に”指導運転手の小山ドライバー”の挨拶が泣かせます。

(バスガイドを検索していてこちらに辿り着きました)

投稿: バスガイドに憧れて | 2008年9月 9日 (火) 23時24分

busバスガイドに憧れてさん

はとバスのガイドさんは、いまでも浅草の町でよく見かけます。親切にお客様を案内していますね。あの接客の質の高さは、すばらしいと思います。

投稿: もりたたろべえ | 2008年9月10日 (水) 23時06分

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