« 《玉くしげ》を読む【その9続き】うなぎ釣れず | トップページ | 《玉くしげ》を読む【その11】網引き、鯛網、紙漉(かみすき)見物 »

《玉くしげ》を読む【その10】「熱海賛歌」

4月22日

暁より雨ふりて寒し。もちひ(餅)うる目ざし(こども)の、ふたりみたり、打ちつれて来る。もとめて、江戸よりもて(持て)行きたる茶にて、つれづれをなぐさむに、山水故、茶の味軽し。

 どうもこの日は、夜明け頃から雨が降ってきて、寒い。近くのこどもたちが二、三人、餅菓子を売りに来たので買う。所在なさを慰めるべく、江戸から持参したお茶を飲む。山水を沸かしたためか、どうやら茶の味が軽く感じられた。

 やるべきこともないので、携帯用の「旅硯(たびすずり)」を取り出して、長歌のようなものを書きつらねてみた。(「あたみ賛歌」ともいえる、流れるような長歌である。)

G

伊豆の国熱海の里は、少彦名神のみことの、いさをしの今も残りて、草つゝみ病をいやすいでゆある賑ふ里と、風のとの遠どにきゝて行見んと、おもひたちはき、手束(たつか)杖腰にたがねて、小笠さへ手に取り持ちて、千はやぶる神村(光興)の君と、玉くしげふたり携(たずさへ)、草まくら結びてゆけば、武蔵野もいつしか過ぎぬ、相模なる酒匂川わたり、小田原の里よりをれて、しなてるや片浦づたひ、こゝろざすあたみにいたり、雪ふりつもる其の山(富士)を、家の名(富士屋)によび、いや高に作りたてたる高どのを、かり(仮)のやどりとしめおきて、ゆあみこそすれ、此(この)みゆ(御湯)は、あやしきかもよ、(略)

 感傷にふれたのだろうか、いままでの旅を振り返る正興。「ちはやぶる(神)」、「玉くしげ(ふたり)」、「しなてるや(片)」など、和歌の世界の《枕詞(まくらことば)》が多用されていて、リズミカルである。これに続き、「大湯」の有様を表現して、「熱海」の温泉のすばらしさを説く。

(略)朝夕にゆあみし居れば、霜氷る冬さむからず、土もさけ水さへ尽きる、夏の日の暑さもしらず、これやこの死なず老いせぬ仙人(やまびと)の住む里ならん、(略)うべようき世のうきことはしらぬ里かも、をの(斧)の柄(え)をくたし(腐らし)ゝためしおもひ出て、家路をだにもわすらえにけり。

朝夕、温泉に入っていれば、冬の寒さも感じない。灼熱の夏の暑さも気にならない。ここは、不死で年もとらない「仙人」の住む里に違いない。わずらわしいこと、いやなことの多い浮世とは無縁の里である。中国の故事にある、囲碁の対局を夢中になって見ていたら、斧の柄が腐ってしまったことにまったく気づかないほど、すばらしい土地で、自分の家に帰ることさえ、忘れてしまう。まさに「あたみ賛歌」である。P

|

« 《玉くしげ》を読む【その9続き】うなぎ釣れず | トップページ | 《玉くしげ》を読む【その11】網引き、鯛網、紙漉(かみすき)見物 »

旅行・地域」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/177442/40214915

この記事へのトラックバック一覧です: 《玉くしげ》を読む【その10】「熱海賛歌」:

« 《玉くしげ》を読む【その9続き】うなぎ釣れず | トップページ | 《玉くしげ》を読む【その11】網引き、鯛網、紙漉(かみすき)見物 »