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《玉くしげ》を読む【その12】熱海から箱根への旅立ち前日

 いよいよ熱海滞在も9泊目。そろそろ旅立たなくては・・・。まずは旅立ちの準備、宿の支払いや土産物の購入などもある。

4月24日P

朝雲り、ひるよりをりをり晴。心地すこしあしければ、ひるまでゆあみせず。「空あれば、明日なん、この宿をいでゝ箱根にゆかん」と、あるじにもつげ、遠州屋のもとへも、「しかじかなり。頼みおきたるつとのもの(みやげもの)、持てこよ」と、ひと(人)はし(走)らするに来らず。

 朝はくもり、昼からは時々、晴れ。少し気分が悪く、湯に入らなかった。明日、お天気なら宿を出て箱根に向かう。富士屋の主人に告げ、かねてから注文してあった遠州屋(土産物屋)にも、「つとのもの」を届けるようにと、使いを出した。しかし、遠州屋はやって来ない。

(「つと」は「苞」と書く。つつむといった意味で旅のみやげの意味)

 遠州屋が来たのは、申のとき(午後4時)で、明日、いよいよご出発とのことで、お忙しいのに遅くなってすみません。ちょっと店でトラブルがあったもので・・・。きけば、店に「ゆすり」の侍がきて居座っているという。言いがかりをつけて、小金を要求しているそうだ。うるさいからといって、その場しのぎに金を渡しても、再度、せびってくるだろうから、いっそのこと韮山の代官所へ訴え出ようと思っている。それからご注文の品物は・・・

 「つとのものは、品取りさだめ、帰らざるさきに日本橋万町村田屋と云うは伊豆舟の宿する家なれば、出しおくべし」と(遠州屋は)ちぎりて(約束して)かへる。

 熱海で購入した品物を、正興たちが江戸へ帰る前に、船便で先に江戸・日本橋万町(よろづちょう)の船宿「村田屋」へ送っておくという。宅配だ。この時代から便利なシステムがあったことは画期的である。

 さて、この日は夕方、いつもの魚屋がやってきて、珍しく「鯛」を持ってきた。もともと熱海には鯛が多いときいていたが、このところ海が荒れ時化(しけ)続きで、わずかに宿へ到着した日に小鯛を食べただけである。さっそく鯛を調理して食す。

 「明日なん立つべきといふけふもてきたるこそ、海神のたまものならめ」など興に入りて、少し酒もたべたり。(明日出発しようという今日になって、鯛がとれるとは海の神様のおかげだ。楽しくなってきたので、少し酒を飲んだ)

 そうこうしていると、宿代の清算のために、富士屋の主人がやって来た。いよいよ、あしたお立ちになるとは、お名残惜しい限りでございます。ぜひ、つぎの機会にもお来しください。お待ち申しております。さて、明朝、日金山(十国峠)を越えるとききましたが、おそらく山の霧が深く徒歩では大変かと存じます。よろしければ駕籠(かご)を頼んだらいかがですかな。というわけで、宿に駕籠屋の手配をし、湯あみも今宵ばかりとおもへば、つとめて入る

 立ちかへりまたも結ばんいづの山 あたみのさとのみゆの泉を

 海にきり(霧)山に雲たちいづのゆの あたみの里ぞくもりがちなる

 などと、口ずさみつつ、寝た。(「熱海(日金山)絵図:『旅行用心集』より、たろべえ加筆」

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