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《玉匣両温泉路記》を読む【その8】熱海「伊豆権現」と「走り湯」へ

 毎日、宿でうだうだしていても暇である。熱海滞在は湯治目的であるが、神仏におまいりすることも楽しみである。

4月20日

 朝起きて湯に入ること、きのふのごとし。遠州屋と云う、挽(ひき)ものうる家の手代来たりて、「江戸へのつと(土産)買い給へ」といふ。見るに手遊(てあそび:玩具)などには、目馴れざるものあれば、「帰るときにはもとめん」とちぎりて帰しぬ。Photo

 宿へ地元の民芸品を売る土産物屋の(この場合は店の営業担当)手代がやってきた。見本を見ると、こどもの玩具に珍しいものがあった。熱海を出るときに買うからと、約束して帰した。

(商魂たくましい)

さて、今日は晴れ、「伊豆権現(伊豆山神社)」におまいりして、「走り湯」(打たせ湯の滝)に行ってみようと決めた。昼食を早めに食べ、留守番に供の男を残し、出発。伊豆山へは、山道を十八丁(約2㎞)である。

正興と光興は、伊豆権現をさくっと参拝し、お目当ての《走り湯》へ向かう。湯守の老婆の教えに従って、大滝では「足よりうたせて、頭は後にせよ」。するとなんとも心地がよい。頭痛持ちの二人、頭が軽くなった。

「二人の病には、なんともこの打たせ湯は効くねえ・・・」と、言うと

同行の光興は「たった一度だけ、滝に打たせも頭痛を忘れるくらいだから、ここに住んでいる人には頭痛なんてないんだろうね」。

すると老婆が曰く「いやいや、そうでもないですよ。ここに住んで打たせ湯に当たっていても永年、頭痛に苦しんでいますよ」「それをきいたら、湯浴みに来た甲斐がないよ」と笑った。

(写真:「現在の走り湯入口」熱海市観光協会提供)Photo_3

 そのうち雲行きがあやしくなってきた。帰りは海辺の道を行く。このあたりは鮑(あわび)の産地であるが、釣り船の漁師もいる。

 「何か魚はありますか?」「いさきならピチピチの採れたてがありますよ」

と、いうわけで、《いさき》を4、5匹購入。このあたりの地名を「鳴沢(なるさわ)」という。

 いよいよ雲が厚くなり、いまにも雨が降り出しそうだ。急いで宿へ帰らなくては。

 とどろとどろ神の鳴沢うちこえてやどりをいそぐ夕立のそら

(「カミナリが鳴る」と地名の「なる」をかけてある。雷が鳴ってきた、急げや急げ)

この熱海からは、向かいに《初島》が見える。海岸から三里(約12㎞)離れているというが、近くに見える。

 夕立のは嶋にかゝる雲を見てみなはしり湯の宿いそぐ也

(嶋は「初島」のこと。夕立が来そうなので「走る」と「走り湯」をかけている)

 ともかく、なんとか宿に帰り着き、海辺で買った「いさき」を煮て食べた。おいしい。そのうち、雷が鳴り響き、大雨である。軒をつたう雨水は滝のようだし、宿の前の通りも小川になった。

よくよく運が良かったと喜ぶ二人。それにしても、いまにも雨が降り出そうというのに、悠長に歌など二首も詠めるものだろうか。

 夕刻、宿の主人がやって来た。そこで二人は、近郊の観光名所についてきいてみた。やはり、正興も武士である。源頼朝ゆかりの「蛭が小嶋」の場所を尋ねると、ここから山道を三里、北条の里にあるという。さらに、伊豆半島周辺の名所について、主人から教えてもらった。

 やがて。光興が風呂へ行く。ぬるいという。温泉をストックしている溜め湯もぬるい。本館の風呂にも行ってみたが同じこと。P

 「いかなる故ぞ」ととふに、(いったいどうしたんだい?)

 「先の雨強くふりたれば、かけ樋へ水入りて、いづこもいづこも水になりたるなり」

とて、あるじきたり、湯舟はらひ流し、

「酉のとき(午後六時)近ければ、程なく沸くなり。待ちて入り給へ」といふ。

「湯、もとの如くなりたる」と云ふに、光興ねしのゆあみして、

「先の寒さをとりもどしたり」と笑ふ。おのれも入りてふしぬ。

 

 大量に降った雨水が、樋(かけい)即ち、「木や竹など木製の溝形あるいは、筒状の装置」に入り込んだのだから仕方がない。それにしても午後6時ななると、噴出してくれる温泉(大湯)はすごい。「さっきの寒さを取り戻した」光興であった。

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コメント

bullettrain
たろべえさん 熱海滞在もいろいろなエピソードがあるものですな。楽しく読ませてもらいました。ところで伊豆山の温泉は今でもありますよね。

投稿: 通りすがりの旅人 | 2008年2月19日 (火) 09時27分

通りすがりさん

「伊豆山温泉」は、いまも有名な温泉です。源泉の走り湯から引き湯です。私は、「水葉亭」に泊りまhした。実に風光明媚な場所です。宿の露天風呂は、海が見渡せる最高のロケーションです。

 熱海の中心までは、約2キロですが、タクシー飛ばせば7,8分です。

投稿: もりたたろべえ | 2008年2月20日 (水) 00時14分

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