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《玉くしげ》を読む【その15】宮の下の湯宿へ

4月26日G

雨猶(なお)やまず。ゆあみし、朝がれひたべ、雨ふれども、「宮の下へゆかん。かごやとひてよ」といへば。「宮城野までひと(人)やりてよべば、しばらく手まどる也」と云ふ。「さらば道は近し、かち(徒歩)にて行くべし」と、雨衣打きて、あるじに別れをつげ、立ち出るころは雨もやみぬ。

 またまた雨である。 木賀の湯宿・亀屋は、湯がぬるく、谷川(須川、早川)の流れがうるさく、しかも寝具には蚤(のみ)がいて、快適ではなかったため、1泊で切り上げることにした。

 雨のため、宿に「かご」の手配を頼んだが、宮城野まで人を出して呼びに行くため、時間がかかるといわれた。それなら、近いことだし、歩いて行くか、と雨具をつけて出発しようとしたら、なんと雨がやんだ。

 山道を登って行くと、中腹あたりで湯煙が見える。「底倉」(底倉温泉)である。ここも湯がぬるい。さて、「宮ノ下」まで、わずかに一里だ。

 奈良屋と云う湯宿につきたるは、午(うま)のときには早し(正午前)。此(この)宿は手広にて間数も多く、襖(ふすま)の絵にて「何の間」と云ふ。おのれらは其の続きの端のつかたに有る小座敷をかり、「紅葉間(もみじのま)」と云うに、付たる勝手をかりて、供のをとこはおきぬ。

 宮の下(宮ノ下温泉)では、《奈良屋》に滞在を決めた。到着したのは、まだお昼前である。ここ奈良屋は、当地でも一番、立派な造りで部屋も多いようだ。「紅葉の間」に旅装を解く。お供の男は、部屋付きの勝手(台所)に居させた。箸、薪(たきぎ)、炭などの所帯道具も熱海の湯宿と同様に、不自由なく準備されていた。風呂へ行く。浴室は、建物の棟続き、十間(約18m)ほど先にある。湯舟が二つ、滝湯(打たせ湯)もある。ちょうどいい湯加減だ。

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 この宿は熱海にことかわり、かなたにて義太夫ぶしかたれば、こなたには今様うたひ、耳かしましきまで賑わいぬ。熱海にても見もせぬ鰹(かつお)にて、かれ飯出したり。ひる過ぐるころより雨ふりてやまず。雲、軒端をめぐり、霧のまがき、ひとつの家のうちをもへだてり。

 

  きりをまがき 雲を軒ばのものと見る 箱根の見みゆ(御湯)の宿ぞ住(すも)うき

 熱海とは違って、義太夫や流行の謡いも聞こえ、賑やかな湯宿だ。食事には、海の近くの熱海でも、お目にかからなかった「鰹」が出た。昼過ぎ、また雨が降り出し、やまない。あたりは霧に包まれ、一軒先の家々さえ、(霧の垣根で)見えないほどである。風流である。

Photo (広重作、宮の下、イラスト:たろべえ)

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