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《玉くしげ》を読む【その19②】道了権現の帰り道

道了権現に参拝した一行は、山道を下った。

 筥根山(はこねやま)木の根岩かどふみこえて のりの花咲く奥をたづねつ

 本当に道了権現(最乗寺)は、山奥にあったと感じたようだ。「のりの花」は、ノリウツギといって、山中で見かける低い草木。和紙を漉くときに「糊」として用いる。

 さらに、来た道を下るのだが、休み休み歩いた。やっと宮城野の里まで戻った。

 この野に紫草あれば、みやぎの(宮城野)の里人、この根を摘み取りて江戸へいだす。

(宮城野の野原には、むらさき草が育っている、里人はこの草の根を掘り出し、江戸で売る)Plateplantmurasaki06

 《紫草(むらさき草)》は、 50~60cmほどの草で、白い花をつける。紫色の根が重宝され、染料として用いられ、染め上がった紫は、とくに江戸では、人気のある「色」であったそうだ。「江戸紫」といい、粋な明るい紫色である。3月の卒業式シーズンに女子大生が、この色の袴(はかま)を着けているのを、最近よく見かける。

 また、「薬草」としても知られ、解熱、はれもの、やけど、凍傷、痔疾などに効能があるという。ところで、この「むらさき草」(単にムラサキともいう)が、和歌の世界では重要な位置を占める。このあたりは、のちほど。

 さて、宮城野の里の茶店で休憩。

Photo 宮城野の里に「きたり、くだものうる家にて又休む。この里の蕎麦(そば)は、信濃国の名ある里より出すよりも、味ひことなるよし。既にこの家にて、そばもうれども、麦かり田うゑするいそしきころなれば、やすめり。あるじの女の、

「前の谷川に山目と云ううを多く住めば、湯あみにきたたまへる都人も、それとらんとて網もてきてなぐさみ給へば、そばもまゐらする也。わどの(和殿)も日をさだめて来給へかし。そば打ちてまゐらせん」と云う。

 このあたりの里では、「そば」が名物である。信濃のそばより、うまいという人もいる。しかし正興らは、残念なことに食べられなかった。兼業農家の茶店では、この時期、麦刈りや田植えで忙しく、「そば屋」は休業中。女主人がいうには、「この店の谷川では、ヤマメがたくさん釣れます。湯浴みに来る都の人も、おそばを食べますよ。あなた様も日を決めて(予約して)おいでください。おそばを打って、お待ちしていますよ」

そして、この店の庭には《むらさき草》が、数多く干してあった。根を乾燥させるためだ。

宮城野はむらさき生ふる里ときへば 民草さへもあはれとぞ見る

(宮城野は武蔵野にゆかりのむらさき草の生える里だから、そこに住む人(民草)さえも、いとおしく心がひかれるものだ) 

この日は、これで宿に戻った。急いで温泉につかり、夕食をとった。Photo_2 (イラスト:たろべえ)

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