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《玉くしげ》を読む【その21①】そろそろ帰ろう江戸へ

 箱根、宮の下(宮ノ下温泉)、奈良屋での滞在も1週間が過ぎた。思いのほか、雨も多かった。おかげでのんびりできた。近くを散策したり、道了権現にもおまいりした。

5月4日

けふも晴。明日は端午の節句にて、蝉の羽のうすき衣きることなれども、深山(みやま)のおく(奥)なれば、綿入たるきぬ(衣)ぬぎすてがたし。「都には菖蒲(あやめ)ひきて軒端(のきば)にさす。この里はいかならん」とおもふに、茅(かや)刈りて軒にさす也。Syoubu

 もう明日は「端午の節句」である。普通なら初夏となり、セミの羽のような薄い着物に衣替えの時期なのだけれど、ここはまだまだ肌寒い山の奥、だから綿の入った着物を脱げない。江戸では、菖蒲(あやめ)を軒の下に飾るのだが、この里は(菖蒲が咲かないためか、代用で)、屋根を葺く「茅(かや)」を飾っている。

 都にてあやめふく日を山ざとは をがや(茅)の軒に をがや(茅)さす也

Photo_2

 都出て きのふけふとは おもへども あやめふく日になりにける哉(かな)

(江戸の都を出たのは、昨日、今日、つい最近のことだと思っていたが、いつのまにか、あやめを飾る季節になってしまったなあ)旧暦の5月4日は、いまの6月初旬である。

 我もひとも、かにかくに都のことのみおもふ。

 私(原正興)も人(神村光興)も、あれやこれやと都のことばかり考えている。話は違うが、私は、ここで使われた《かにかくに》(「あれこれと」「いろいろと」の意味)という、語句が好きだ。と、いうのも石川啄木の『一握の砂』の中にある、つぎの一節が、なんとなく胸にしみるのだ。

かにかくに渋民村(しぶたみむら)は恋しかり おもひでの山 おもひでの川

 さてさて、箱根は湯宿・奈良屋での一行は、光興の虫歯が急に痛み出し、湯治も滞りがちだ。一方の正興自身も、目の具合が悪い。どうもここの温泉の泉質が合わないのかもしれない。

「さりとて、玉くしげふたたび熱海へゆかんには、関(関所)あれば心にまかせず」

どうしようもないが、せっかく殿様(沼田藩の藩主・土岐氏)からいただいた長期休暇の日数には満たないが、このあたりが、潮時。明日にはこの宿を出発しようと決めた。

 主人に宿代の清算をし、朝と晩に食事の支度をしてくれた「賄い婦」には、世話になったお礼の心づけを渡した。P (イラスト:たろべえ、写真:茅葺き民家イメージ)

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コメント

たろべえさん 4月に出発した玉くしげの旅も いよいよ箱根をあとにするのですね。この間 神田の古本屋で この話が出ている江戸温泉紀行の本【東洋文庫】をさがしましたがみつかりませんでした。是非読みたいですね。

投稿: 通りすがりの旅の者 | 2008年3月13日 (木) 09時33分

通りすがりのさん

コメント拝見しました。
「東洋文庫」の【江戸温泉紀行】は、確かに絶版になっています。大きな図書館で借りて、自分の読みたいページをコピーして、読んだらいかがでしょうか。いずれにせよ、「玉くしげ」は古文なので、平易とはいっても、前へ進むには時間がかかります。

 本当にもう少しで「旅」の終盤です。ご期待ください。ありがとうございます。bottle

投稿: もりたたろべえ | 2008年3月13日 (木) 13時17分

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