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桐生織物の歴史《西の西陣 東の桐生》書評【その1】

 群馬県桐生市は、浅草から東武線の特急「りょうもう号」で1時間50分程、伝統的な上州の織物の町である。桐生近辺には渡良瀬川沿いに観光スポットがある。足尾銅山、草木ダムに富弘美術館などへは、何度か足を運んだ。また、やや山奥だが、梨木(なしき)温泉もあり、入浴して名物のキジ鍋を食べた旅もあった。自然な山々と季節に応じた景色が楽しめる場所である。

 桐生は平成17年6月、近隣の新里村・黒保根村を吸収合併し、人口128,000人の町。江戸時代頃から西の西陣に対し、「東の桐生」という心意気で、織物産業を発展させてきた。そんな桐生の「織物」の歴史や郷土の人々に焦点をあて、丹念に調べ、書き起こした書物に出会った。《西の西陣 東の桐生》(正・続)、岡田幸夫著、2006年上毛新聞社刊である。

 ほとんど一般的ではない地方の歴史や文化を知ることは楽しい。《西の西陣 東の桐生》は、つぎのような構成になっている。

1 新町の創設 

2 天下の西陣

3 昇竜の発展期

4 田舎絹から名産地へ

5 桐生新田屋

6      崋山の見た桐生

大きな日本史の潮流や時代背景をきちんとおさえてから、その地方の「織物」に関わる歴史やポイントとなる人物を取り上げる手法で書き進む。だから本当に読みやすい。ちょうど江戸時代の幕末近くで、二部作の(正)が終わる。とくに各章末のコラム(エッセイ)が親切である。これは絹織物の作業工程をたどるもので、「繭、糸、織、染、文、新」と続く。

「繭」の項では“蚕(かいこ)は桑の葉をどんどん食べて育つ。(略)一月足らずのうちに、体積で千倍、重量で一万倍の大きさに成長する。(略)しかもものすごいスピードで桑を食べ、その音がザワザワと雨音のようだ。”と教えてくれる。

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内容では「5 桐生新田屋」がおもしろい。吾助という架空の人物(おそらく桐生では何人も実在したであろう事業家の一人)を主人公にしたミニ小説なのだが・・・。

“どのような産業も、優れた製品をつくることだけでは産業にならない。商品に見合った販売があってはじめて成り立つ。桐生の織物においては、販売は買継商(かいつぎしょう)と呼ばれる人たちがあたった。”

桐生新町に育った吾助は、十五歳で買継商に奉公に出る。店の主人の好意で寺子屋にも通わせてもらい、吾助は熱心に勉強もし、もちろんまじめに働く。将来は自分で店を持ち、江戸に出たり日本全国を行商に歩きたいと夢を抱く。奉公して三年を経過したころ、商売で江戸へ行かせてもらった。桐生織物の大きな市場は、花のお江戸である。浅草の雷門から、浅草寺へ行く。お参りが目的ではなく、集まってくる江戸の人たちが、どんな着物を身につけ、はたまた流行はなんだろうと、調べるのだった。大事なことは、消費者の求める着物、売れる商品を織ってもらい、流通にのせることだった。

やがて信用を得て、五年が経過、吾助は主人から京都・西陣へ修行に行くように命じられる。京都の問屋での修行が始まる。少し慣れてくると、桐生と西陣の格の違いに気が付く吾助。“考えてみればそれは無理からぬことであった。西陣には1000年、日本の都で織物を生産してきた長い歴史がある。桐生は、西陣から技術を学び、中級以下の織物を生産しているだけだ。”

“織物の材料や道具は(西陣も桐生も)変わりはしない。違いは人の姿勢であり。”吾助は気づく。その後、桐生に戻った吾助は、独立し、機屋(はたや)を始める。気配りのできる嫁をもらい、益々、事業は伸びていった。“(織物は)製造ありきの発想ではなく、どのような商品がお客に受け入れられるか、いわばマーケットイン型の商品企画が”必要なことは、京都の問屋での経験で知っていた。そして吾助は、“西陣を超えるもの”をつくることになる。帯が、将軍の「お召し」の品となったのである。(御用達というところだろうか)続きは本書でどうぞ。

 著者の筆が、ぐいぐい読者を引き寄せる本である。

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