« 《星野くんの二塁打》を読む①【原文】 | トップページ | 《星野くんの二塁打》を読む③【原文】 »

《星野くんの二塁打》を読む②【原文】

 Tクラブの投手は、なかなか投げない。バッテリー間のサインは、しんちょうをきわめた。

 やっと、サインがきまって、投手がプレートをふんだ。

 ランナーの岩田は足の早い選手ではなかった。だから、なるべく塁からはなれて、走塁に有利な態勢をとろうとした。

 投手は、ランナーのほうにも、じゅうぶん、注意をはらっている。

 ランナーは、じりじりと、塁をはなれはじめた。

 あっ、少し出すぎた・・・・・・。バッターボックスにいる星野がそう思うのと同時に、投手は一塁へ矢のような球を送った。あぶない。岩田は、すなけむりをあげて、塁へすべりこんだ。

 塁しんは、手のひらを下にして、両手をひろげている。セ-フ!あぶなく助かったのだった。一塁のコーチャーが、大声でランナーに何かいっている。

 岩田のはりきった動作を見ているうちに、星野の打ちたい気持ちが、また、むくむくと頭をもたげてきた。

 --------打てる。

 きっと打てる。

 確実にヒットが打てさえすれば、むりにバントをするにはおよばない。

 かれは、しせいを少しかえた。心もち、またを大きく開いて、左足を、ちょっとまえへ出した。とたんに、投手が第一球を投げこんできた。予想どおりのつりだま。しかし、星野のもっともすきな近めの高い直球・・・・・・。

 星野は、大きくふった。

 当たった・・・・・・。バットのまん中に当たったボールは、ぐうんとのびて、二塁と遊撃の間をぬくあざやかなヒットになった。中堅手が転てんするボールを追って、やっと、とらえた。そのまに、ランナーは、二塁、三塁。

 ヒット!ヒット!二塁打だ。

 R町の応援団は総だちになった。ぼうしを投げあげる気の早い者もある。

 ボールは、やっと、投手のグローブにかえった。

 星野は、二塁の上に直立して、両手をこしに当てて、場内を見まわした。だが、このとき、星野は、別府さんがにがい顔をして、ベンチからかれのほうを見ていることには、気がつかなかった。

 星野の一撃は、Rクラブの勝利を決定的にした。九番打者の氏原が、右翼に大飛球をあげ、それがぎせい打になって、岩田がホームインしたからである。

 Rクラブの郡内野球選手権大会出場は確定し、星野仁一は、この試合の英雄となった。

Photo

*****************************************************************************※吉田甲子太郎(よしだ・きねたろう)作、『星野くんの二塁打』大日本図書より

 原文をたどってみると、自分が小学生の頃、教科書で読んだ「星野くん」の話が、実はかなり綿密に場面描写をしていることを知った。監督の指示に従わず、センターの頭を抜くツー・ベース・ヒットだ。そうか、星野くんは、ピッチャーだったのか、しかしバッティングは得意だったのか。次の打者が、ライトに犠牲フライを打って、岩田選手がホーム・インしたわけだ。

 何よりも「星野くん」は、星野仁一というフルネームだったのだ。

 さて、試合には勝ったが・・・、この話のクライマックスは、どう展開していくか。

|

« 《星野くんの二塁打》を読む①【原文】 | トップページ | 《星野くんの二塁打》を読む③【原文】 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 《星野くんの二塁打》を読む①【原文】 | トップページ | 《星野くんの二塁打》を読む③【原文】 »