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【江戸時代の寺社めぐり】《江戸近郊道しるべ》を歩く 『藤稲荷に詣でし道くさ』

『藤稲荷に詣でし道くさ』文政7年(1824)9月12日

 嘉陵(かりょう)65歳、落合村(現在の新宿区下落合)に秋の虫の音をききに行くという名目である。訪ねたのは、「藤稲荷(東山稲荷神社)」と「薬王院(瑠璃山 医王寺)」である。

 落合村の七まがり(地名)に、虫聞に行けば、老をたすけてともになど、もとの同僚畑秀充のいひしも、いつしか十あまり五とせばかりのむかしとは成けり。げに、とし波の流れてはやきためしをおもへば、かたときのいとまをも、あだにすぐすべしやは、わかきとき、日を惜しめるは勤にあり、老いての今はたのしみもて、こゝろをやしなひ、終わりをよくせんとなるべしや。

■「落合村に虫の鳴く声でも聞きに行きませんか、お互い老人同士で助け合いながら」

などと同僚の畑秀充がいっていたのも、15年も前のことだ。本当に時の流れは速いものだと思えば、片時も無駄にはできない。若いころは時間を惜しんで働いたものだが、老いての楽しみは、心穏やかに暮らし、人生の終焉をきれいに迎えたいものだ。

 江戸時代の男性の平均寿命は50歳そこそこだったというから、作者の嘉陵はかなり長生きなのだが、当時、50を越えると隠居しても不思議はなく、老人という認識があったようだ。そういえば、「人生50年(正確には、人間五十年。下天の内を比べぶれば夢幻のごとくなり)」、ひとつの区切りであることには違いないと思う。もちろんまだまだ子育てや家のローンが残るサラリーマンは、50を越えても働かざるをえない。要するに、その後の、これからの人生をいかに穏やかに、平穏無事に生き、人生を終えていくかということだろうか。

 さて、この頃、嘉陵は隠居なのか、引越しをしたばかりだったらしい。家の中はそうじもできず、襖(ふすま)の紙も貼っておらず、散らかっていたようだ。「もうすぐ冬が来るのにどうするつもりなの」と、古女房に小言を言われながらも、聞えないふりをして、今日はとてもうららかなよい天気なので、家にいるのももったいないと、思いだした落合村の七まがりの道にかこつけて出かけたようだ。

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 「藤いなり社」に到着。40年も前にも嘉陵は、ここを訪れている。今回、この社が荒れ放題な状況に驚く。たまたま神社には、月見の準備をしている女と小さな娘がいた。

「七まがり」の道を尋ねるが、この神社の山を登るのも、この先を登るのも道がいくつも曲がっていて、七曲がりだといわれた。

☆東山藤稲荷神社(旧藤稲荷神社、または旧富士稲荷神社:東京都新宿区下落合2-10-5)

 もともと源氏の氏神様であったが、江戸時代には、武家をはじめ庶民にまで「知恵と勇気」を授けていただく福徳の神様として人気を集めたそうだ。神社の後方には、「おとめ山公園」がある。この山が徳川将軍家の狩猟場であったそうで、一般人の立入を禁止した「御留山」が、その由来。

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(江戸名所図会)

さて、嘉陵は先を歩く。

 ひろ前をくだりに猶ゆけば、みちのかたへに寺あり。石しきなみて、見入いとよし。

薬王院といふ。

■藤稲荷神社前の広場を下り、なお道を行くと、かたわらに寺がある、石を敷き詰めて見た感じもよい、薬王院という。

 

 立派な門である。境内に入ると、少し盛りは過ぎたが、ぼたんの花が咲いている。歴史を感じる石仏も多い。ところで、奈良県にある総本山長谷寺のぼたんを100株移して、いまでは1,000株に育っているそうだ。ぼたんは4月中旬から下旬にかけて、大きくきれいな花を咲かせる。手入れが行き届いたお庭である。寺を出て隣に「下落合野鳥の森」がある。いまでも数々の鳥のさえずりが聞える。ほっとする時間だ。

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☆薬王院(瑠璃山 医王寺薬王院:真言宗豊山派、東京都新宿区下落合4-8-2)

 御府内八十八箇所霊場第36番札所。JR山手線「高田馬場駅」から約10分。

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 いま訪れてみると、敷地は狭く、参道はマンション群の中に囲まれている。残念ながら境内は荒廃していて、古い石仏や水鉢などが、無造作に積まれている。江戸時代の面影など微塵もない。「江戸名所図会」にも描かれた神社なのに、寂しい限りだ。

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