いつまで続く 旅館の《日本式宴会》
日本が高度成長を続けていた頃、旅行業界は「団体旅行」をおもな収入源としていた。首都圏から近い温泉地には、多くの大型温泉旅館が建ち並んだ。週末ともなると、観光バスが何台も列をなしてたくさんの職場旅行(慰安旅行)や招待旅行のお客様を運んでいた。
夕方、宿へ入ると団体のお客たちは、我先にと大浴場へ行く。大風呂の入口にはスリッパが無造作に脱ぎ捨てられ、脱衣所や洗い場は行列になった。ひと風呂浴びると、ぞろぞろと宴会場へ集合し、銘々がお膳にすわる。団体旅行のメインである大宴会が始まる。きちんと序列のある団体であれば、幹事があらかじめ席順を決め、上座には誰々が、入口近くには幹事が・・・などど、大忙しである。
しばらくのざわざわの後、宴会が始まる。あいさつと乾杯の音頭。それでは酔わないうちにと、幹事が明日の朝食の時間と場所を案内し、出発時間を告げる。気のきいた団体なら、二次会の案内を入れる。さらに、部屋の冷蔵庫は個人会計になるので、明日出発前に必ず部屋ごとに清算を済ませるよう説明する。その後は趣向があれば、様々な出し物や隠し芸、ゲームなどに興ずることになるが、昨今の宴会は退屈なカラオケ大会へと変貌していく。無礼講とか、酒の上での話といいながら、人々は失敗することを恐れて、とりあえずは上役や上位の先生方の上座に、お酌の行列をつくる・・・。
先日、鬼怒川温泉での会議で、『現代観光とホスピタチティ』や『現代観光総論』の著者であり、日本観光研究学会の会長も務めた、立教大学名誉教授の前田勇先生とご一緒した。先生はツーリズムも専門だが、長い間日本の観光産業の現場を見ながらサービスや問題点などを指摘し、多くの提言をおこなっている。
前田先生のお話によれば、旅館に来て、温泉に入り、ゆったりした気持で宴会になれば、日本人ならやはりすわって食事をしたい。しかし宴会の畳に座布団を敷き、あぐらをかいてすわる形式だと何種類もの料理を配膳するのには、大変な労力が必要で、まさに農村の田植えと同等の疲れだそうだ。したがって宿の仲居さんたちは、高齢化すると腰や膝を痛めるのが常である。宴席前の準備から、温かいものを次から次へ提供する彼女たちの努力によって支えられているため、「日本式宴会」は続けられているのかもしれない。なるほど、うだうだしないで、さっと宴会は2時間で締めよう。片付けも田植えと同じ重労働なのだから。(写真:鬼怒川グランドホテル)




























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